ツルタです!何世紀にもわたって至宝として愛され、16世紀後半からフランス、ロシア、スウェーデンの間で取引されてきた255.75ctの宝石「シーザーのルビー」の数奇な運命を探ります。
王冠に付いていたトルマリン
「シーザーのルビー」はロシアとスウェーデンの王冠と宝石の歴史に関心を持つ人には有名な宝石です。
しかし、ほとんどの人にとって、この石とその歴史はまったく未知のものでしょう。
シーザーのルビーとは、鉱物学者アレクサンドル・エフゲネビッチ・フェルスマン(1883-1945)が1922年にロシアの王冠宝石の目録を監督していた際に調べた結果、ルビーではなくルベライトトルマリンであることが判明した歴史的な宝石です。
1925年にフェルスマンは『ロシアのダイヤモンドと貴石の宝物』を出版し、この歴史的な宝石の正体が広く知られるようになったのです。
この石がルビーではないというニュースは、1689年から1777年の間、王冠を保持していたスウェーデンで不信を招きました。
スウェーデンの大手新聞社スヴェンスカ・ダーグブラーデットの一連の記事で、かつて「ヨーロッパ最大のルビー」と考えられていた石と本当に同じものなのかが疑問視されたんです。
模型の寸法と比重からトルマリンと断定
フェルスマンがトルマリンと断定した宝石は、1777年にスウェーデン王グスタフ3世がロシアのエカテリーナ2世に贈ったものと全く同じであることが、古い資料を研究し、1748年に作られた2つの模型の大きさと重さの関係を比較して、アミノフ教授によって証明されたのです。
模型の寸法を比較し、ルビーとした場合の重さを計算した結果、コランダムよりもはるかに比重が小さく、トルマリンの比重と一致することが分かりました。
スウェーデン王室御用達のカットされた石の大きさと形は、ラズベリー型のシーザールビーよりほんの少し大きいだけだったのです。
シーザールビーの歴史
この石に関する最も古い記録は、16世紀後半、フランス王シャルル9世の所有物の中にこの石が含まれていたことにさかのぼります。
1575年にシャルル9世が亡くなると、妻のオーストリア王エリザベートは、父マクシミリアン2世の宮廷に戻る際にこの石を持ち帰りました。
エリザベートの帰国後まもなく彼女の父は亡くなり、彼女の兄が神聖ローマ皇帝でボヘミア王のルドルフ2世となりました。
1609年の古書「宝石類の歴史」の中で、ボエティウス・デ・ブートは皇帝ルドルフ2世を象徴する赤い宝石について記述しています。
ボエティウスはこの石が本物のルビーかガーネットだと信じていました。
彼によると、この石はかつて60000ドゥカート(現代の価値で約36億円)で購入されたといいます。
とんでもない金額ですが、それでもその価格は本当の価値よりはるかに低く、本来は値段がつかない宝石かもしれない、とボエティウスは考えていたのです。
後にボエティウスは、この石を「Caesaris rubinus」つまり「皇帝(シーザー)のルビー」と名づけました。
※ドゥカート…中世から20世紀の後半頃までヨーロッパで流通していた硬貨
スウェーデン軍に持ち去られた宝物
1618年から1648年にかけて、中央ヨーロッパでは三十年戦争が起こり、プラハの戦いではスウェーデン軍がプラハ城を占領し、ルドルフ2世の国庫を含む略奪を行いました。
その際、ルドルフ2世の宝物であるシーザーのルビーが持ち去られたのです。
結局、ハンス・クリストファー・フォン・ケーニヒスマルク将軍は、クリスティーナ皇太子妃にこの宝石を贈り、1650年にクリスティーナがスウェーデン女王に即位した直後、ケーニヒスマルク将軍は爵位を授けられることになりました。
1654年にクリスティーナが王位を退き、ローマ・カトリックに改宗して国を去る際、彼女はシーザーのルビーを携えて行きました。
ローマに向かう途中、彼女はアムステルダムに数年滞在し、1655年にこの石は彼女が持ってきた他の宝飾品と一緒に質入れされたのです。
実はその際、シーザーのルビーはすでに本物のルビーではない、と鑑別されていました。
クリスティーナは1689年にローマで亡くなり、枢機卿デイコ・アッツォリーニを相続人に指名していました。
枢機卿はクリスティーナのわずか2ヵ月後に亡くなり、その跡継ぎは甥のポンペオ・アッツォリーニ侯爵となりました。
クリスティーナの遺産を分配する際、スウェーデンのカール11世は、アムステルダムに残っていた質草の宝石類に目をつけたのです。
結局、クリスティーナの宝飾品はストックホルムに運ばれ、王冠宝飾品に含まれることになりました。
クリスティーナの遺産をめぐる争いのため、宝石は何度も詳細に記述されることになりました。
皮肉にもこの記述により、ボエティウス・デ・ブートが記述したものと後にスウェーデンやロシアの王冠宝飾品の目録に記載されたものが、本当に同じ宝石であることを確認することができたのです。
天然石好きが高じてstoriaという石屋さんにお勤めすることになった関西人。主に仕入れとデザインを担当していますが、最近は写真撮影も勉強中。これまでに買付にいった国はブラジル、中国、タイなど。特技はどこでも眠れること。
コメント
どちらかというと皇帝のルビーの方が正しいのではないでしょうか。
シーザー(カエサル)というのはローマ皇帝の称号のひとつなので、そちらの方がわかりやすいかもしれませんね。